高知の演劇推進プログラムvol.2「5つの卵のはなし」
開催日時 | 2015年10月11日(日) 14:00開演 |
会場 | 高知市文化プラザかるぽーと 小ホール |
入場者数 | 130名 |
イタリアからやってきたその人は、大柄ながらも紳士的で、時々冗談も言いながら、日本人を良く観察し、特徴をつかむのが上手だった。演劇・音楽・絵本・・、多才な持ち主は、今回の舞台美術さえも自作した。その人物の名は、ダリオ・モレッティ。イタリアの児童劇団「テアトロ・インプロヴィーゾ」の主宰で、演出家として高知にやって来た。
連れ立ってやってきたのは、並河咲耶。妻であり、通訳であり、アシスタントを務めている。彼女が間に入ることによって、演出家ダリオのダメだしは、役者に分かりやすく、そしてまろやかに伝わっていく。
伝えられた役者の名は、浜田あゆみと藤岡武洋。地元高知で役者や演出家として活躍している。浜田の演技は、確固たる土台の上に、様々な形に変形可能な建物が建っているようで、見る者を惹きつける。藤岡の演技は、対照的に、自由且つコミカルで柔軟性とユーモアを兼ね備え、ある種人気者のゆるキャラのような存在感を魅せる。そんな二人に「せいいっぱい遊べ」と、ダリオは言う。その人の持つ可能性を信じ、引き出すのが上手だった。
伸びのびと演技や稽古をしてほしい。そんな思いで、我々高知市文化振興事業団の職員がサポートに加わって、一から演劇作品を創作した。制作・稽古期間は十日と短く、予算も少ない、そして伸びない集客…、集積する多くの問題は、私達を悩ませた。しかし、本事業には多くの人が関わってくれた。この場で、皆様の名前を挙げるには誌面が足りない。本当に感謝している。その人達から多くのエネルギーをいただき、本作品は大きな卵となった。
ただ良いモノを見せたくて…。役者の想いは伝わると信じた。迎えた当日、開場前の行列、急遽の増席、満席の中の笑い声・・、舞台は成功といって良い熱気を帯びていた。
幕が降りて、一夜が開けた。ある者は、「ドラマトゥルク」と評され、演出家でも脚本家でも役者でもない、それでいて制作とは独立したポジションで舞台芸術を深化させることが重要な役割を占めるということを学んだ。またある者は、この数日間を人生の宝だったと思い役者としての自信を深めた。そしてある者は、本作品は自分の血となり肉となって、今後の活動に大きな影響を与えていくと発した。
ゴールではなく、ここを起点に学びを生かす。それぞれが、新たなステージで。本公演が残した最たるものは、この事業に関わった人々の成長と言えるかもしれない。