高知の演劇推進プログラム「あらし」 内藤裕敬・鈴村貴彦インタビュー


南河内万歳一座座長・内藤裕敬さん、同劇団所属俳優・鈴村貴彦さんにお話をうかがいました。
今回の「高知の演劇推進プログラム」では、お二人に約一カ月という長期間高知に滞在していただき、高知の演劇人と共に芝居を作り上げていただいています。
さまざまな「評価のあらし」を受け続けるお二人に、この作品に込める思いをお聞きしました。(2014年10月1日収録)



——内藤さんが高知の役者と芝居を作ってくださるのは昨年二月の「雨かしら」以来で、万歳の公演からいろんな形で高知の演劇に関わっていただき本当にありがとうございます。

内藤:いえ、こちらこそありがとうございます。

——いろんな地域で、各地の演劇人と芝居を作っていると思うんですが、高知の印象はどんなものでしょうか。

内藤:今回上演する「あらし」という作品は、大阪、名古屋、三重と3カ所で上演しています。
大阪はそもそも劇団数が多いのでオーディションを受けに来る人数も多いし、基本的に未経験者は不可ということにしたので、それなりに経験者が集まったと。名古屋が意外に、劇団数がある割には経験の薄い方がオーディションで多かったかなと。 三重県津市は、前年に名古屋でやったこともあって、名古屋からのもう一度リベンジに来る人がいなかったのと、三重県内に劇団がそれほどないので、そういう意味では未経験者が多かったというような状況の中で作りました。
高知は都市の規模としては、大阪、名古屋には全然追いつかないくらいだし、三重県の津市と比較してもそんなに大きな変りはないんじゃないかなと思うんですけど、その中でも劇団数も多いし、それなりに経験者も多いということで、「いろは」の「い」から始めなければいけないっていうことはなかったなと思いますね。

——鈴村さんも万歳一座からの客演として、過去3回の公演に全て参加されていますが、各地の違いや高知の特徴だったりとかは感じますか?

鈴村:高知の特徴…、万歳の公演で来た時に、高知の劇団の人と関わり合いを持ったりしてて、そういう人たちと再会して一本芝居が創れるってなったときに、喜びはすごいありましたね。あ、あの人たちや!と思って。劇団にとってもすごく身近な人というか、そんな人と再会できて高知という土地でできるっていうのは、これは演劇が膨らむ、ちょっとした土壌みたいなものが生まれてきているのかなって。

——万歳のお芝居を高知で上演させてもらうことがきっかけで、地元のさまざまな人達との繋がりが生まれたのですが、それがちゃんと役者さん同士でも生まれてきているというのは本当にうれしい限りですね。 それでは作品についてですが、今回の「あらし」は、初演の大阪公演のオーディションに受かった方をベースに作品を書き上げたんですか?それとも本が先にあったのでしょうか?

内藤:その参加者をモチーフに書いたものですね。

——登場人物に学校の先生がたくさん出る戯曲になっているんですが、作品のテーマというものは?

内藤:うーん、明確なテーマがあって書いたわけじゃないんですけど、まぁとりあえず評価っていうものがはじめにあって、自分自身も自分の作品を発表すれば、それは評価の矢面にさらされるわけで、特に劇団っていうのは、作品を発表するってことは、やっぱり評価を求めるってことだと思うんですよね。
そういう意味で僕ら万歳一座が東京公演を必ずやるのは、やっぱり評価の土俵が東京にあるってことですよね。やっぱりいつもその評価の土俵で勝負しておかないと、どっか狭い価値観の中でずっとそれに満足するっていうことになってしまうのはいやだなって思ってね。
でまぁ、その評価の土俵に上がれば、その評価にさらされるわけで、不本意な評価もあれば、非常に嬉しい評価もあるんだけど、その評価っていうのは非常に微妙でね、その評価になるほどと思って従ったからと言って、いい結果になるとは必ずしも言えないし、また評価を無視して突っ走って、いいことが必ずあるか、そこまで自分に自信があるかっていうと、そうでもない。だからすごく評価に左右される。自分自身もね。ということは僕自身も劇団も、それから皆さんもそうなんじゃないのっていうところはあると思うんですよね。
まぁそういう意味で評価を遊んでみようかなと。それも他人の評価と自己評価を。ということになると、何かものを、他者を評価する仕事の人を主人公にした方がいいかなと。ということで、学校の先生でいこうかっていうのが最初の着想かな。

——そこででてくる登場人物たちは、皆それぞれに、大なり小なり悩みだったり、自分はこれでいいんだろうかっていう思いを抱えていると。その中で、一番中心となる役は谷になるんですかね。谷っていう人物にみんなが翻弄されていくというお話だと思うんですけど、鈴村さん、谷をやってみての感想というのは。

鈴村:うーん、なんか、うーん。役どころについてはやっぱ踏み込んで、この谷という役はいったいどんな過程を経て、こんな状況に至ったんだろうみたいな、そういう背景はめちゃくちゃ考えます。
それで、今回の高知公演に向けて台本を読み直して、新しい発見がめちゃくちゃあったんですよ。 あ、これはおもろいなと読んでて思って。で、読むたびに背景が広がってって、こういうやりかたもあるんちゃうかって。これ高知入って稽古したら、ものすごいおもろい回になるんちゃうかなって。いざ入ってみたんですけどそんなうまくはいかない(笑)。
結局その背景が膨らんだのは、僕の中で良かったんですけど、いざ稽古やって、目の前で他の人達と一緒にやってみたらそんな背景ぶっ飛んでしまって。そこにまつわる人たちとかと接してみないと、谷の人柄は多分そこでしか出てこないのかなって思ったりしてる最中です(笑)。

——役者同士の熱量のぶつかり合いで芝居も変わってくるものだと思うんですけど、この作品は総勢12名の役どころの中でそれぞれのアンサンブルというのは公演地ごとにやっぱり変わってくるものですか?

内藤:それはまぁ、人が変われば変わるね。やっぱり即興的な演出をするので、相手が変われば自ずと全てが変わってくるという形にはなりますね。

——今回はオーディションによって出演者と配役を決めました。経験の少ない方から、大ベテランまで、そして前回の「雨かしら」には関わっていない方たちもいる中での作品制作となりましたが。

内藤:オーディションについては、今回は先に戯曲がありますからね。テキストに合わせて、役柄の年齢とかも考慮しながら採ったので、落ちた人の中にも、あー一緒にやってみたかったねっていう人は何人もいるわけですよ。そういう機会がまたあればいいと思うんだけど。
新しい人に関しては…まぁ未熟は未熟だよね。迷いがあるね、皆。前に一度出会った方も新しい方も、やはり自分が何か演劇的なモノづくりの上で、可能性のある方向に向いてるかってことに疑問符があって、こっちを向いて作ってていいのだろうか、もしかしたらちょっと変な方向を向いてて、それを自分で気づかずに良しと取り組んでいないかな、みたいな迷いがあって、まぁその辺のちょっとした手がかりを掴みたいとか、何か自分が見ていかなければならない方向を見出したい、という気持ちが強いんじゃないかなと思って見てますけど。

——ずばり作品の中にある、評価にさらされるっていうところに、現実の演劇活動にも繋がるかも知れないですね。
さて、前回の「雨かしら」は内藤さんが高知に入った期間は10日ぐらいだったんですけれど、今回は、めちゃくちゃ忙しい内藤さんが、なんとひと月も高知で滞在していただいています。色んな所で遊んでたりとかしてるんですか(笑)。


内藤:ひと月滞在はありがたいね。大阪にいると、こまごまと色んなのが入って、大阪でやりながらも二・三日地方へ行くっていうのが頻繁に入って、何か慌ただしい感じで、休みの日も休みって感じがしないんだけど。
まぁ高知へ来るとこまごまとした用事が入らないし、稽古は夕方からなので、依頼されてる原稿なんかは昼間にゆっくりやることができるし、それも他に仕事が入らないので、割と余裕をもってできるので。遊びながらね。釣り行ったりとか、まぁいいや今日は飲んじゃうかみたいな感じでやれるので、すごくのんびりしながらもお芝居に取り組めるっていうので、すごく滞在は嬉しい(笑)。

——じゃあこれを機に、定期的に(笑)

内藤:そうね、ほんとそんぐらいやりたいくらいですよ。

——ありがとうございます。鈴村さんも、ひと月ゆっくり高知でいると、もう大阪恋しくなったりしてないですか?

鈴村:あー、街に対して大阪が恋しいとは思わないですけど、人は恋しいかなとは思いますね。このひと月の間は日中、あんまり高知に来た甲斐のない過ごし方を、まだ過ごしていますね。

——けどその分ストイックに芝居にだけ向かい合っているみたいな感じですか。

鈴村:それはすごくありがたい状況ですね。

——そうやってこのお二人が充電して、いい形で発散して、そして高知の皆との良い化学反応を生んで、素晴らしい作品になればいいなと思いますね。

内藤:ね

——最後にこのお芝居を見に来る方に対して、一言いただけますか?

鈴村:いい作品になると思いますので、本当に楽しみに来ていただきたいです。

内藤:絶対にいいの作りますよ。

——期待しといて大丈夫と。

内藤:はい大丈夫ですよ(笑)。

——ありがとうございました!
高知の演劇推進プログラム「あらし」公演は10月18日(土)①14:00〜②19:00〜、10月19日(日)③14:00〜です。たくさんのご来場お待ちしています。